□LASTCALL (作:猫子さん





最初に ココに来たのはいつだったか。

落ち着いた内装と、意外にもアグレッシブな選曲。

今日は閉店の間際からか、私しか客はいなかった。



「いらっしゃい。」



マスターから声がかかる。

この人も不思議な人だ。

彼のキャラクターがこの店に反映されているのか。

ひろがる口元と、深い笑いじわ。



私がスツールに滑り込むと、チェーサーとともにいつものグラスが出てくる。



「ありがとう。」



私は気に入ると同じ物しか飲まない。

今は冷やしたテキーラにはまっている。

いっきに喉元にほうりこむ。



「おみごと。」



それこそ見事なウィンクがとんでくる。



「おかわり。」



ひょいと眉が上がる。

それだけで、何があったのか問いただされた気分だ。

嫌な奴だ。



「別れたの。」



「ふったの?」



「別れたんだってば。」



肩をすくめて次のグラスがでてくる。

同じように、セロリスティックをすすめられる。



「このディップためしてみて。」



カリカリとセロリをかじる。

普段は感じない苦味が口に広がった。


「にがいね。」



「うん。」



私はしばらくセロリと格闘した。









「バイオレットフィズできる?」



「できますよ。」



「ああ、やっぱりいいわ。」



「めずらしいね。」



バイオレットフィズ。

今の私には、綺麗な色水でしかない。



「そうね。」



きゅいきゅいとグラスを磨く音がする。



「彼とね。」



「うん。」



「初めて飲んだお酒でさ。」



「うん。」



「ずっと、それしか飲まなかった。」



「うん。」



私はそれから、いろんなお酒を覚えた。

楽しいときも、悲しいときも。

その場に、気分によって。



「もう飲めないや。」



「うん。」



「・・・。」



「俺がね。」



彼が静かに話し出す。



「初めて酒を飲んだのは、初恋の人と別れた時かな。」



「へぇ。」



「ありがちでしょ。」



「フフ。」



「その子を始めてみたのは図書館の窓だった。

俺は図書館なんていったこともなくってネ

その子が何してるのかもわからなかった

でも、いつもいつもその窓にいたんだ

俺は校庭からその子を見てた

なんで探すかなんて、わからなくても

俺は見ていたんだ



ある時ね

その子が泣いてて

思わず声かけちゃってさ

びっくりされた

あなた誰?って

すぐ席を立って逃げちまった



俺は、彼女の後姿を見ながら泣きたかった

俺は何もしらない、彼女は俺のこと知らないんだって

それで卒業してお終いよ



今だったら食いついて放さないのになぁ。」



きれいな笑い声が響く。

今だったら。

今の私と、あの人と、出会いなおすことができただろうか。



「最後に、おごりますよ。」



「うん。」



「バイオレットフィズ?」



私は、マスターの瞳を見返す。






「テキーラを。」










□感謝の辞

 猫子さんにこじつけ番(?)でリクエストに答えていただきました。テーマは「初めて酒を飲んだ時」ということで。
 作風としては「あっさり」だと思うのですが、淡々と読んできていきなり義人の告白部分で胸をわしづかみにされましたね。あ、なんかそういうのつらい…と。痛くてさらに面映い気持ちというか。
 走って逃げた気持ち、よく分かります。

 どんな大人になっても、恋愛ってどっかひとりズモウのとこ、ありますけどね。
 裏を返せば、ある程度はそうやって、自分のなかだけで盛り上がれる情熱もないとダメなんだけど。
 誰かさんのように「脳内物質のいたずら」とか本気で思ってるとなんも始まらん。

 「今だったら」とたまに思うこともありますよね。意味ないって分かっちゃいるんだけど。
 ちなみに私が初めて飲んだカクテルが「バイオレットフィズ」でした。懐かしい。ありゃあ高校生の頃だったか?(いかんがな)

 どうもありがとうございました。